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その7. 絵画空間と現実空間の接点 |
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大乗寺は日本海に面した香美町香住区から内陸に少し入り、矢田川が大きくカーブを描く丘の上に建てられています。寺は東側の山を背に西向きに位置し、南方向には山岳修験道の行場(三川権現社)(注1)をもつ霊山三川山があります。また北方向には日本海に視界が大きく広がります。 客殿の西面にある「孔雀の間」の「松に孔雀図」は、ほぼ原寸大で松と孔雀が描かれています。部屋両端面襖に描かれた松の枝は前庭に向って伸び、視線を前庭にスムーズに導きます。この前庭には楠の巨木や松が植えられ絵画空間と現実空間との絶妙な一体感を意図して描かれているのです。 北面にある「山水の間」には三川山方向に描かれた深山からの渓流が、大乗寺前を流れる現実の矢田川となり、日本海方向にある大海に注ぐまでをテーマとした見事で壮大な風景絵巻が表現されています。 東方向にある「鯉の間」の前方には鯉池があり、襖に描かれた池の鯉と現実空間の鯉の棲む池との融合が意図されています。 また客殿2階に描かれた「群猿図」は三川山方向の面には山から下る猿を、日本海方向の面には海に戯れる猿の群れを描き、現実世界との関連が表現されています。 さらに「孔雀の間」と「芭蕉の間」の境の欄間には波に戯れる獅子が西向きで彫られ、西方浄土に向かう姿をを暗示しています。 このように、大乗寺客殿は個々の作品の芸術性を追求しているだけでなく、前庭と楠の巨木、三川山、日本海、矢田川、鯉池等の現実空間と絵画空間とがつながり融合することを目指したといえます。 さらに大乗寺客殿は現実空間と絵画空間を繋げ、自分自身(小宇宙)を球面状に広げ、最終的に自身が大宇宙そのものであるということ、また逆に大宇宙を収斂して自身の中に大宇宙を取り込む観想(心を集中して深く考えること)をして、本質的にマクロコスモス(大宇宙)とミクロコスモス(小宇宙、自分自身)が同一であることを知る(悟りを得る)ための密教の修行道場の空間としての機能も持っているのです。 注1 三川山の三川権現は大和の大峯山、伯奢の三徳山と並ぶ日本三大権現のひとつです。 |
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◆大乗寺を知る その1. 空間芸術家でもあった応挙 その2. 十一面観音と客殿 その3. 立体曼荼羅 その4. 大乗寺の立体曼荼羅(障壁画空間) その5. 客殿が曼荼羅になっていることがわかったのは? その6. 宗教的イメージの高揚を意図した間取り その7. 絵画空間と現実空間の接点 その8. 大乗寺の隠された符丁 その9. 行方知れずの絵 その10. 長くなった絵、短くなった絵 その11. 新しい発見1 二間続きで絵を見る。 その12. 新しい発見2 かすかな線は水辺となって見える… |
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