遊鯉図 円山応瑞筆 天明7年[1787年]について この部屋は「山水の間」につながる高位な人の控室の機能をもっています。この部屋に床の間がついているのはそのためで、襖1枚で山水の間の高座敷に入って行ける位置にあります。襖に描かれた鮎が泳ぐ川は、山水の間に描かれた湖へと繋がっています。更にこの部屋は、仏間の真後にあたる部屋ですから、仏間の蓮池とここに描かれた蓮池が繋がるようになっています。 応瑞は応挙の子でこの絵を描いた時は22歳でした。池の中の鯉や亀がテーマとなっており、身体をくねらせて泳ぐ鯉や、水面に顔を出してしばし休憩中の亀など、自然の光景を一瞬時を止めたかのように表現している。淡い彩色と余白は無限の広がりを感じさせ、池の中の小宇宙はそのまま大宇宙の摂理であることを暗示しているようにも見えます。 また、この部屋も庭に向って開かれ、庭には鯉の泳ぐ池があり、ここでも絵の世界と現実の世界の一体化を試みています。
◆逃げる亀、向きを変える鯉 岩に上がって甲羅を干している亀は右から見ると左へ、左から見ると右へと向きを変えて、人から逃げるように見えます(図1)。また、同様に左端の襖に描かれ身をくねらせている鯉も、右から見ると左に、左から見ると右に身を翻すふうに見えるのです(図2)。これらは2次元平面である絵と3次元の現実空間の間で起きる現象ですが、これらを巧みに使って描くのは応挙一門の得意とするところです。
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 鯉池
 図1
 図2
 落款
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